別アングル 新保 秀明 episode.3

別アングルは柏崎の魅力的な人を取材して、その人の情熱や生き方を紹介するインタビュー記事です。
お話を伺うのは、仕事、遊び、趣味など、何かひとつのことに打ち込む人たち。動機は、好きだから、楽しいから、気が付いたらやっていたからと、いたってシンプル。
それが結果として人を喜ばせ、地域のためになっている。
別アングルから見るとまちづくりになっている。
魅力的なひとの存在に気づけば、またさらに柏崎が好きになれるはず。
そんな想いでこの記事を書きます。

新保 秀明

柏崎市出身。太鼓集団 鼓明楽(こあら)所属。
大学時代に和太鼓と出会う。
イベントや福祉施設での太鼓演奏を中心に、大小さまざまな舞台に立つ。
年間50回ほどある公演では伝統にとらわれず、自分たちにしかできない演奏を打ち出している。

大学を卒業後は柏崎で就職、地元に戻ってきた。
柏崎でも太鼓を叩き続ける。
所属したのは柏崎の伝統ある団体「日本海太鼓」。
曲を一から覚える。
サークルの時とは太鼓の種類も違う。
何より違うのは日本海太鼓では「お面」を付けて演奏すること。

日本海太鼓のお面はただの衣装ではない。
お面ごとに物語りがあって、お面を付けて太鼓を叩くときは、お面の役になり切る。
物語りも、全て柏崎に伝わるもの。
鏡が沖で源義経を救った白竜。
鯨波の鬼穴に出没するという人食い鬼。
東本町専福寺のひょうきんなお坊さん。
その物語の主人公になり切って太鼓を叩くんだ。

これがすごく難しい。
例えば鬼の面。
叩き方も意識して荒々しくバチを振る。
曲中、太鼓から太鼓へ移動するときも鬼になり切って歩く。
鬼は架空の人物だ。
当たり前だけど鬼なんて見たことないよね。
正解がないんだ。
先輩に助言してもらっても、その人が思っている鬼を真似しているだけになってしまう。
それは自分の鬼じゃない。

今までお客さんのために叩くことを大切にしていたけど、日本海太鼓の太鼓では、また違った要素が入ってきた。
「新保」という人間を捨てきって鬼になるのはなかなか難しいけど…。
新鮮で楽しい。

日本海太鼓に入って4年が経つ頃、ある公演の時、お面をつけると、そこには自分がいなくなっていた。
スッと役に入る。
身体が勝手に動いて役にシンクロしている。
不思議な感覚だ。
曲の構成、リズムなんて頭にない。
無になる。
和太鼓を始めて4年、日本海太鼓に入ってさらに4年。
ようやく自分なりの役を手に入れ、人物になり切って太鼓を叩けるようになった。

日本海太鼓は伝統ある団体で、格調高い。
結成は昭和52年、45年の歴史がある。
曲も結成時の時からのものが連綿と受け継がれ演奏されている。
中にいる先輩たちも大ベテランだ。
柏崎の地域に根付いた団体だから、お客さんも熱心な固定ファンが多い。

日本海太鼓で太鼓を続ける中で、自分でも新しい何かを始めたい気持ちも出てきて。
自分が大学時代入っていた和太鼓サークルでは常に新しいメンバーが入ってくる。
新入生が入ってくればサークルの中に太鼓を叩いたことが無い人が来る。
当然、その人は一から和太鼓を習う。
自分もかつてそうだった。
そこには新しいエネルギーがあった。
新しく曲を覚えて出来なかったことが出来るようになる。
成長していく喜び。
学生時代のことを思い出し、そんなエネルギーのある団体を立ち上げたくなった。

新団体発足の打ち合わせ。
つながりのあった大学の和太鼓サークルとそのOBOG、上越の若手和太鼓奏者たちが集まる。
場所は柏崎のバー。
新しい団体について語り合う。
「和太鼓の概念を変えたいよね」
「お祭りの時にしか見られない和太鼓ではなくて、もっと和太鼓の敷居を低くしたい」
「いいね、フットワークが軽い感じ!」
夢を熱く語り合った。
曲も新しく自分たちで作る。
一から作った曲は我が子の様に愛着が沸く。

団体名は鼓明楽(こあら)に決定。
太鼓で演奏する人も聞く人も明るく楽しくなる。
まさに自分たちを体現した名前だ。
やりたいことが、太鼓への思いが、全部詰められた名前になった。

鼓明楽がデビューしてからありがたいことにたくさんのひとに公演を依頼されるようになった。
柏崎の人って本当に暖かい。
日本海太鼓の先輩たちからも
「こんどこんな公演があるんだけど鼓明楽、出ない?」
なんて声をかけてくれる。

いまはコロナでなかなか難しいけど。
公演を重ねて、鼓明楽をどんどん地域に根付いた団体にしていきたいな。
和太鼓を聞いて怒る人なんていない。
演奏する人も、聞く人も楽しい。win-winの関係。
和太鼓は自分を変えてくれたから。
和太鼓があるからいまの自分がある。
この楽器を、バチを持てなくなるその日まで続けていきたい。
自分のやりたい和太鼓で目の前の人、周りの人が少しでもハッピーになってくれるんだったら、こんなに嬉しいことはない。

photo:ヒロスイ

2022年3月31日 23:59

カテゴリー / まちから

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投稿者 / yajima