別アングル 新保 秀明 episode.2

別アングルは柏崎の魅力的な人を取材して、その人の情熱や生き方を紹介するインタビュー記事です。
お話を伺うのは、仕事、遊び、趣味など、何かひとつのことに打ち込む人たち。動機は、好きだから、楽しいから、気が付いたらやっていたからと、いたってシンプル。
それが結果として人を喜ばせ、地域のためになっている。
別アングルから見るとまちづくりになっている。
魅力的なひとの存在に気づけば、またさらに柏崎が好きになれるはず。
そんな想いでこの記事を書きます。

新保 秀明

柏崎市出身。太鼓集団 鼓明楽(こあら)所属。
大学時代に和太鼓と出会う。
イベントや福祉施設での太鼓演奏を中心に、大小さまざまな舞台に立つ。
年間50回ほどある公演では伝統にとらわれず、自分たちにしかできない演奏を打ち出している。

新入生が入学すると大学ではサークル勧誘が盛んになる。
ひとつの部屋にサークルが集まり自団体の紹介をする。
そこで見たのは和太鼓サークルの演奏。
音が大きく響く和太鼓に惹かれた。
団体で演奏するところもいいなって思った。

他には軽音サークルも考えた。
サークル見学に行こうとするんだけど、軽音サークルの練習場所は閉じ切った室内で活動している。
部員の人たちのノリも自分とは違う。
まだどもりがあって、言葉もうまく出てこない。
中が見えそうで見えない軽音サークルの部屋の扉を開ける勇気はなかった。

一方で和太鼓サークルは外で練習していて、オープンな感じだ。
扉を開けない分、入っていきやすい。
和太鼓サークルの練習場所に見学のため向かった。
練習している場所へは階段を下りていく。
いざ来てみると、階段を下りる数歩を躊躇してしまう。
「今日じゃなくてもいいんじゃないか。来週になったら来よう」
「いやせっかくここまで来たんだから行くしかない。でもでも…」
迷って迷って、それでも最後には勇気を出して階段を下り、サークルへ加入することを選んだ。

俺は身体が大きかったから、大太鼓のパートになった。
全力で打つと大きい音が出せる。
どんなに強くたたいても太鼓は壊れないし、それだけいい音が出る。
大きな音って、カッコいい。
サークルに入って3か月くらいするとデビュー公演となる。
初めての公演は覚えた曲を演奏するのでいっぱいいっぱい。
自分のために音を出すことしかできなかった。

次の公演は夏、場所は高齢者施設だった。
大太鼓は演奏中、お客さんの方向とは逆の方向に向かってステージに立つ。
演奏中はお客さんの顔を見ることはできない。
演奏を終えてお客さんの方へ振り返り、礼をすると…。
おばあちゃんたちが泣いている。
「感動したよ、ありがとう、また来てね」
撤収の時、手を握りながら言ってくれる。
こっちも泣きそうになる。

この演奏から自分の中で何かが変わった。
生まれて初めての感覚。
ずっとどんよりしていた心が一気に晴れて、スッと軽くなった。
人に求められている、人の感情を動かしたという自信。
喋れない、言葉が出ない、そういう悩みが心から無くなった。

和太鼓を始めた頃は曲を覚え、音を出すことで精いっぱいでお客さんのことは見えていなかった。
自分のために太鼓を叩いていた。
高齢者施設での演奏を機にそれがかわった。
「お客さんをもっと感動させたい。人から必要とされたい。もっと喜んでもらいたい」
内向きだった練習態度がかわり、お客さんのために練習をするようになった。

それから2~3か月。
気が付くと、言葉が出てくるようになっていた。
普通にしゃべれる。
和太鼓の公演中ステージ上でも、どもること無く曲紹介ができる。
喋るのが楽しい。自分の声を出せるってこんなに楽しいんだ。
喋らなくて良いから選んだ太鼓に、喋る楽しさを思い出させてもらった。
本当は人と喋るのが好きだったんだ。

自分を変えてくれた和太鼓。
人のために叩けば、自分だけじゃなくまわりもハッピーになってくれる。
感動や楽しさを伝えられるのが、すごく良くて。
大学時代は、ほとんど毎日太鼓漬けだった。
卒業しても和太鼓を続けたい。
卒業後、柏崎に戻っても太鼓を続けるため、在学中から地元の団体である日本海太鼓に所属した。

episode3へ続く

photo:ヒロスイ

2022年3月31日 23:58

カテゴリー / まちから

#

投稿者 / yajima