別アングルは柏崎の魅力的な人を取材して、その人の情熱や生き方を紹介するインタビュー記事です。
お話を伺うのは、仕事、遊び、趣味など、何かひとつのことに打ち込む人たち。動機は、好きだから、楽しいから、気が付いたらやっていたからと、いたってシンプル。
それが結果として人を喜ばせ、地域のためになっている。
別アングルから見るとまちづくりになっている。
魅力的なひとの存在に気づけば、またさらに柏崎が好きになれるはず。
そんな想いでこの記事を書きます。
山田 華緒李
新潟県上越市生まれ。柏崎市矢田集落の地域おこし協力隊。
大学時代に、中国の少数民族が作る亮布(リャンプー)の制作・研究をする。
2020年9月から、地域おこし協力隊として矢田集落へ着任。
コミュニティ活動、住民と一体となった亮布作りを通じて地域商店の復活を目指す。

知らないまちで、知らない人に囲まれて、始まった大学生活。
以前の私より前より明るくなれた気がする。
一年生は授業も一般教養が中心で、専門的な授業は多くない。
二年生になれば実技も始まり、より専門的になる。
高校生の時に志した美術史はすそ野が広い学問で、何を勉強していいか、わからない。
一方で周りにいるのは個性の強い「The 美大生」と言った子たち。
学生だけでなく教授までもが自分の好きなものについて、目をキラキラさせて語っている。
授業中、生徒がついてこられなくてもお構いなしに語る。
衝撃的だった。
自分の哲学を持っている人たちに囲まれて、私は自分が何を好きなのか分からない。
好きなことに没頭している人たちが羨ましい。
「ちっぽけでつまらない自分。わたしってなんだろう」

19歳のとき。
神戸の大学院に進学していた兄が亡くなった。
自殺だった。
遺品の日記には将来への不安が書かれていた。
日記から伝わる
「自分ってなんだろう。このままでいいのだろうか」
という兄の思い。
少し前に会ったとき、普段とちがう兄の様子を感じていたのに…。
「あのとき、もっとちゃんと話を聞いてあげればよかった」
と後悔した。
少し経って落ち着いてからゆっくり考える自分の将来のこと、いまの学生生活のこと。
「いまの私には何もない。好きなこともなく、わくわくもしていない」
このままじゃいけない。
「やりたいことをして生きていきたい」
という気持ちが、より強くなっていく。
その時、ぼんやりと気になり始めていたのが「布」だった。
同じ大学の布の専攻に行こうとすると、試験を受けなおさなきゃいけない。
「休学して他の場所で布のことを勉強して、またこの大学に戻るかどうか決めよう」
二年から三年へ進級せず、休学をした。

布を染める「染色」が学べる工房を、日本全国から探す。
遠くの知らないまちにいくことに抵抗はなくて。
むしろワクワクして喜びを感じる。
山形の工房で研修生として住み込むことが決まる。
そこでは糸染めと機織りの両方やらせてくれた。
やっていくうちに布を染めるのが楽しくなっていく。
工房の夏休み、民族衣装に特化した小さい美術館に遊びに行った。
そこで一つの布と出会う。
藍で染められたその布は、不思議なことに赤紫色をしている。
布なのに金属の様にピカピカしている。
聞くと中国の少数民族・苗族が作ったもので、「亮布(リャンプー)」という布だそうだ。
その不思議な質感にすっかり魅了される。

布を染めているのなら、今の工房で作ることができるかも。
愛知県にある苗族刺繍博物館にも行く。
見様見真似で亮布を自作してみる。
どんどん亮布にハマっていく。
ついに見つけた。
「私はこれが好きだ」
と言えるもの。

亮布の試作をしながら、大学に3年生として復学。
ゼミの研究テーマはもちろん亮布だ。
3年の秋には実際に亮布の作り方を学ぶため、中国に行った。
言葉も通じない文化も違う異国の土地で、カルチャーショックを受けて、ボロボロになって日本へ帰ってくる。
「もう二度と中国へは行きなくない」
そんな思いもしばらくすると忘れて、またふつふつと現地へ行きたくなるから不思議。
最初は亮布の作り方を知りたくて行っていたけど、苗族の暮らしや文化にも興味が出てきた。
episode.3へ続く
photo:ヒロスイ