別アングル 重野 貴明 episode.3

別アングルは柏崎の魅力的な人を取材して、その人の情熱や生き方を紹介するインタビュー記事です。
お話を伺うのは、仕事、遊び、趣味など、何かひとつのことに打ち込む人たち。動機は、好きだから、楽しいから、気が付いたらやっていたからと、いたってシンプル。
それが結果として人を喜ばせ、地域のためになっている。
別アングルから見るとまちづくりになっている。
魅力的なひとの存在に気づけば、またさらに柏崎が好きになれるはず。
そんな想いでこの記事を書きます。

重野 貴明(しげの たかあき)

柏崎市生まれ。重野農産代表。
北条地区で農業を営む。離農する高齢農家から田んぼを受け継ぎ、作付け面積を増やしている。
柏崎のブランド米「米山プリンセス」の認証を受ける。
「3K」と言われる農業のイメージを変えるため楽しみながら情報発信をしている。

柏崎のまちをPRするイベントに参加した時のこと。
会場は東京の秋葉原。
用意してもらったブースでお米を販売した。

イベントのためにパネルやポスターも作って入念に準備。
試食の米も用意した。
味には自信がある。
食べてもらえれば買ってもらえるはず。
5kg入りの袋を考えたが、東京の人には重たいだろう。
2kg入りの米を100袋用意した。

イベント会場内で積極的に試食を勧めた。
食べた人はおいしいと言ってくれる。
けれど、おいしい止まり。
購入に繋がらない。
全く売れないままイベントは終了。
結局売れたのは10個ほどだった。

準備していった米は100個。段ボールが5~6個になる。
それをほぼそっくりそのまま柏崎に持って帰ってくる。
売れ残った米をまた倉庫に戻す。

「なんて惨めなんだろう…」
泣きたいくらいだった。
出発前、半分以上は売れるだろうなんて考えていた。
試食の感触はよかったのに。
何がいけなかったのか。

よくよく聞いたら東京の人は2kgの米なんて持って移動できないそうだ。
よくて300g。
1kgでも重たいという。
提供する側と欲しがっている側のギャップを感じた。
そこがずれていると、こうも売れないんだな。
味が良ければ売れると思っていたが、量やパッケージも大事なんだ。
このことがあってお客さんが何を欲しているか、追求し始めた。

使いやすくデザイン性のあるパッケージを作ろう。
やるからには農業のカッコ悪いイメージを変えたい。
人と同じものもイヤ。
どんなデザインにしようか。
試行錯誤の中、一人の男を思い出した。

長岡の整備会社で働いていた時のこと。
飛び込みで営業に来たデザイナーがいた。
歳が近かったこともあり意気投合。
飲みに行くようにもなった。
農業をするようになって連絡も取っていなかったが、思い立って連絡してみる。
「お米のパッケージデザインってできるかな」
「いけるよ!」

会って想いを伝えると、思っている通りのデザインをしてくれる。
すっかり専属のデザイナーのようになった。
あるとき、2人で雑談していたときのこと。
「お米がペットボトルに入っていて自動販売機で買えたらおもしろいよな」
中身は300gくらいで、無洗米。封を切って炊飯器に直接入れて洗わずに炊く。
冷蔵庫の中で横積みしても転がらないように、四角いペットボトルにしたらどうだろう。
最初は笑い話だったアイデアだけど。
「これはいけるかもしれない」

こうしてできた無洗米ペットボトル二合入りは、発売すると思った以上に反響があった。
お客さんから様々な声が入る。
「米を洗うのが面倒だから重宝している」
「結婚式の引き出物に良い」
「変わったお土産がほしかったから」
ありがたい反響だ。
中には
「ネイルで米が研げないから」
という想定していなかったところでも反響をもらうことができた。

東京のイベントでくやしい思いをしてから、お客さんの求めるものは何かを考え続けてようやく形になったデザインだ。
デザイン一つで売り方や売り先が変わる。
自分の中の農業に対してのイメージが変わってきた。

田んぼではぬかるんだり穴が空いたりした場所に砂を入れることがある。
そうすることでトラクターなどの機械がハマるのを防ぐ。
この砂に砂浜のものを使うと、そこだけ稲の生育が良くなる。
海の砂はミネラルが豊富だからだ。
そこから着想を得て、去年から始めたのが「荒塩米」という商品。
柏崎の荒浜という砂浜の砂を田んぼ撒いて作ったお米だ。

柏崎の山から出た水が田んぼや川を通って海に出る。
水がたどり着いた先の海の、ミネラルをたくさん含んだ砂を、また田んぼに戻す。
海も山もある柏崎ならではの「土地循環型農業」だ。
柏崎でしかできない米つくりだと思っている。
新型コロナで柏崎に帰ってこられない人にも、地元を思い出せるようなネーミングやパッケージにした。

まちを変えたいなんて大それた気持ちはないけれど。
自分には自分のやりたいカタチの農業がある。
自分の作る米にプライドを持って、農業をかっこいい仕事にしていきたい。

photo:ヒロスイ

2021年3月31日 23:57

カテゴリー / まちから

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投稿者 / yajima