別アングル 重野 貴明 episode.2

別アングルは柏崎の魅力的な人を取材して、その人の情熱や生き方を紹介するインタビュー記事です。
お話を伺うのは、仕事、遊び、趣味など、何かひとつのことに打ち込む人たち。動機は、好きだから、楽しいから、気が付いたらやっていたからと、いたってシンプル。
それが結果として人を喜ばせ、地域のためになっている。
別アングルから見るとまちづくりになっている。
魅力的なひとの存在に気づけば、またさらに柏崎が好きになれるはず。
そんな想いでこの記事を書きます。

重野 貴明(しげの たかあき)

柏崎市生まれ。重野農産代表。
北条地区で農業を営む。離農する高齢農家から田んぼを受け継ぎ、作付け面積を増やしている。
柏崎のブランド米「米山プリンセス」の認証を受ける。
「3K」と言われる農業のイメージを変えるため楽しみながら情報発信をしている。

柏崎に戻ってから自動車整備の会社に入社した。
結婚もした。奥さんは柏崎の人だ。北条の実家を出て家も建てた。
勤め先の会社が変わったが、整備士の仕事は続けていた。

「このまま自動車整備の仕事でいくんだろうな」
今度こそはそう思った。

あるとき、実家に顔を出したときのこと。
農作業小屋のシャッターがツギハギになっていた。
シャッターの一部を切って、新しく繋ぎ合わせて修復した跡がある。

「おめぇ、これどうしたの」
父親にわけを聞く。
「田んぼ仕事を手伝ってもらったら、軽トラでぶつけられてしまった。
シャッターが壊れたから直したんだ。
その日のうちに、また手伝いの人に軽トラを側溝へ落とされた。
軽トラは足回りが壊れた」

手伝ってもらった人に修理代は請求できない。
父親はハッキリとは言わないが
「もうやってらんねぇよ」
と言った具合にうなだれている。

俺が柏崎に戻ってから十数年。父親も歳をとった。
体力的にも農業はきついんだろう。
いつまで農業を続けられるかわからない。

父親の作る米が旨いことは知っている。
この旨い米が食えなくなるのは悲しいな…。
小さい頃から田植えや稲刈りなどを手伝っている。
農作業は苦じゃない。
仕事にしようと思わなかっただけで、農業が嫌いなわけじゃないんだ。

父親の跡を継いで、農業をやろうか。
しかし農業で生きていくことなんてできるんだろうか?
奥さんに相談する。
「食っていけるのであればいいんじゃないの」
きっとたくさん不安もあっただろう。
それにもかかわらず、農業を始めることを承諾してくれた。

父親に農業を継ぐことを伝える。
父親は何も言わず了承してくれた。
これはあとから他の人たちから聞いたことなんだけどさ。
「息子が農業を継いでくれるんだ!」
すげぇ酒飲んで、そこら中に電話してはこう言って回ってたらしい。

就農してから農業経営のセミナーに参加した。
泊まり込みで開催され、会場は東京。
自分と同じように就農したばかりという農家が参加していた。
講習の中で自社のPVを流している農家の講師がいた。
今でこそ動画を自分で撮影して編集する農家も増えたが、当時は衝撃的だった。

「すごい!農業ってこういう見せ方もあるんだ」
自分も農業の動画を撮りたい。
ただおそらくこの先、他の農家もみんな同じように動画を撮るようになるだろう。
同じような動画を見たって面白くない。
どうせやるなら、面白くカッコよく撮りたい。

就農後の自分の置かれている環境にも違和感を感じるようになった。
農業は高齢化が進んだ産業だ。若者が少ない。
自分のまわりにノリや考え方が合う同業者がいないことに気づく。
農業は「きつい・汚い・カッコわるい」の3Kと呼ばれる。
見た目も含め、この業界に浸りきってしまっては、いけないんじゃないか。
「このままではすげぇオヤジになるな。もちろん悪い意味で」
若い人が農業に希望を持てるように、3Kのイメージを変えたいと思った。

どんな農業をしていくのか。
模索をする中、自分の道ができたのはFacebookがきっかけだった。
稲作農家が撮る動画は一般的に田植えや稲刈りが多い。
俺はあえて地味な「肥料撒き」や「溝切」と言った稲作における中間作業の動画をアップ。
夏の暑さ、作業のしんどさ、孤独な1人作業。
1人で仕事をしていると変なテンションになる。
それを面白おかしく、かつカッコよく撮影する。
「おもしろいことやってますね」
「一人でどうやって撮影しているんですか」
Facebookで知らない人からコメントが入り、友達申請が来るようになった。

動画に寄せられるコメントに助けられることもある。
1人じゃないんだと感じることができる。
「これからどうやって農業やっていこう」
そんな風に自分と同じように悩んでいる人の役に立てれば嬉しい。

就農して二年が経ち、父親から事業承継。
大型の農業施設も建てた。
融資も受けたから、覚悟を新たに決める。
そんな時、壁にぶち当たった。
それは、販売。
米つくりはしてきたが、米を売るのはド素人だったからだ。

episode.3へ続く

photo:ヒロスイ

2021年3月31日 23:57

カテゴリー / まちから

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投稿者 / yajima