別アングル 霜田 真紀子 episode.2

別アングルは柏崎の魅力的な人を取材して、その人の情熱や生き方を紹介するインタビュー記事です。
お話を伺うのは、仕事、遊び、趣味など、何かひとつのことに打ち込む人たち。動機は、好きだから、楽しいから、気が付いたらやっていたからと、いたってシンプル。
それが結果として人を喜ばせ、地域のためになっている。
別アングルから見るとまちづくりになっている。
魅力的なひとの存在に気づけば、またさらに柏崎が好きになれるはず。
そんな想いでこの記事を書きます。

霜田 真紀子(しもだ まきこ)

柏崎市生まれ。シモダ産業株式会社 常務取締役 営業企画部部長。
シモダ産業による新しい農園、シモダファームを立ち上げ、ブランドバナナ「越後バナーナ」の栽培を開始。
「越後バナーナ」のブランド化を通じて持続可能な地域貢献を目指す。

東京の自宅のテレビから、中越沖地震で被災した柏崎の様子が流れてくる。
「工場で火災が発生しています」
上空からの映像に映し出されたのは、火災の煙が上がる工場。
シモダ産業だ。実家の工場で火災が発生している。
急いで実家に電話をかけるが繋がらない。

上空からの映像が、もう一か所の火災を伝える。
「柏崎刈羽原発で火災が発生。変圧器から煙が出ています」
シモダ産業からも近い、柏崎刈羽原発で火災が発生していた。

依然として電話は繋がらない。
「火災が発生していれば、従業員は工場屋外に避難しているはず。
もし原発で放射能漏れがあれば屋外も危ない…伝えなければ!」
しかし柏崎から離れたところにいる自分にはそれを伝えるすべがない。

「会社の火災は大丈夫なの?柏崎刈羽原発の放射能漏れは…?」
二つの煙があがっているのを、離れたところでテレビ越しに、ただただ見ているしかできなかった。
「冷や汗ってこういうことか」
今でも忘れられない、あの時の感覚は。

しばらくしてやっと電話が通じる。
幸い柏崎刈羽原発からの放射能漏れはなかった。
運よく埼玉にあるシモダ産業の取引企業が柏崎に行くとのことで、その会社の車に同乗させてもらい、翌日には柏崎に来ることができた。

被災した柏崎のまちはテレビで見たとおりだった。
道路は地震で波を打ったようになり、実家の工場は火事で焼けている。
報道カメラが工場敷地内に入り、慌ただしい。
悪夢の様だった。

2002年にスタートしたシモダ産業の産廃処理事業の施設は、地震で内部の焼却炉が破損。
外側の建物だけを残して内部は使用不可能になった。

「東京で結婚して旦那さんを連れて柏崎に戻ろう」
最初はそう思っていた。
けれど中越沖地震がきっかけで、変わった。
柏崎に戻る決意が固まった。

「火災で焼けた会社を私が立て直さなきゃ」
と思ったわけでは無い。
「大変な時に家族へ連絡がつかなくてつらかった。近くにいたい」
でもない。
純粋に「柏崎へ戻るなら、いまだ」と感じた。

中越沖地震の翌年、柏崎に戻りシモダ産業に入社。部署は営業を希望した。
前職が保険営業だったからね。
取引企業の鋳物会社や自動車会社を営業して回る部署。
お客さんは鋳物会社が大半。鉄を溶かして製品をつくる工場だ。

入社してから最初の仕事、営業で取引先の工場に行った時のこと。
「ここは女の入るところではない」
と言われる。
前職の保険会社勤務の経験から、お客さんのところに行くのはスーツが礼儀だと思って、ちゃんとした靴とスーツで訪問する。
「そんな恰好で工場に来るな」
と怒られる。
「工場は作業着が正装だ」
って。

性別のことを言われて、礼儀だと思っていた服装もダメ出しされて。
もちろん鉄の溶ける工場内でのことだから、安全を気遣って言ってくれているんだろう。
けれど、カルチャーショックだったなぁ。いまでは作業着姿も板に付いてきたかな?

あるとき、所属している経済団体で柏崎のまちの魅力を探検するツアーを企画した。
地域貢献の一環だ。子どもたちを連れてバスに乗り市内各地をめぐり、地域へ目をむけるためのきっかけを作る。

山間のとある集落でブナの植林を手伝いにいったときのこと。
手伝いを終えて休憩していると地域の人がふと話してくれる。
「ここへはたくさんの企業や団体が地域活動を手伝いに来てくれる。
しかし、一回来るだけで、そのあと継続しないんだよね」

ハッとした。まさに自分の企画がそうだったからだ。
私は地域に入るきっかけを作ることまでしか考えていなかったかもしれない。
その先の「持続可能」ということが抜け落ちていた。
まちづくりは一回だけではなく、継続していかなければいけないものなんだ。

episode.3へ続く

photo:ヒロスイ

記事中の写真一枚目は公益社団法人中越防災安全推進機構から提供。
鯖石川改修記念公園より撮影。地震でひび割れた先、左手にシモダ産業の工場。

2021年2月17日 18:23

カテゴリー / まちから

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投稿者 / yajima