社会を良くする挑戦者たちvol.14

使命とストーリーをお菓子に乗せ、発信する
集落とそこにいる人の想いをなくさないように

 山あいの集落に静かに佇むカフェ「EALY CAFE」といえば、市内でも聞いたことのある人が多いのではないでしょうか。お店を運営するのは「NPO法人SPIN A TALE(スピン ア テイル)」の矢島慶子さんです。SPIN A TALEは、高齢化率が60%を超える南鯖石地区の小清水集落を100年後も存続させることをミッションに事業を行っています。

 元々この活動を始めようと思ったのは慶子さんではありません。
 慶子さんは東京で8年間過ごした後、中越沖地震をきっかけに柏崎へUターンして来ました。柏崎に帰って来てからはゆっくり過ごそうと思っており、柏崎を良くしようとか、新たな価値を見出そうとは思っていなかったそうです。戻って来てから就いた仕事はIT系の企業で、主に観光情報を扱う部署にいました。そこで出会ったのが、今の夫である衛さんです。衛さんは当時、ひゃくいちねん会という任意団体として小清水集落を存続させようと活動を行っていました。仕事を通して市内で活動している人たちと出会うようになり、楽しく生きていくために自分で何かを作り出そうとしている人たちを目にすることが多くなった慶子さんは「こういう生き方の方が楽しい!」という気持ちになっていったそうです。

 衛さんの紹介で訪れた小清水集落では、村の人たちがあたたかく迎えてくれました。全然知らない人のはずなのに山菜を分けてくれたり、ここ良いところでしょ〜と声をかけてくれたりと、ウェルカムな雰囲気と共に村への愛着の深さを感じました。村の人たちの想いに触れ、自分自身も村の人や村のことが大好きになり、こんなに綺麗な場所が衰退していくのをただ見ているだけというのは辛すぎると思った慶子さんは、次第に自分にできることがあるのなら何かしたいと思うようになっていました。今では衛さんと同じ思いを共有し、カフェの運営を担っています。

 SPIN A TALEとして次に行うのは、お菓子のブランド「tamuke」の展開です。
 集落内には数多くの伝説が残っており、今はそれを語り継いでくれる高齢者もいます。しかし、遠くない未来に語り継げる高齢者がいなくなった時、村の歴史も一緒に消えていってしまう可能性があります。そこで、いつまでも語り継がれていくように現代に合う形で表現できないかと思い選んだのが、お菓子のコンセプトに集落の伝説を盛り込むという方法でした。
  tamukeというブランド名は、峠の語源になったという説のある「手向け(たむけ)」からきています。昔の旅は命がけで、他所の土地との境目とされていた峠では旅の安全を祈願していました。tamukeのお菓子は大切な人の次への旅立ちの時に贈り物としても使ってもらいたいという思いが込められています。メイン商品となる「TOUGE(とうげ)」は、薄いワッフル生地をスライスし、中にキャラメルを塗り重ね合わせる、ストロープワッフルというオランダ発祥のお菓子です。その作り方が、旅の安全祈願のために峠で神様に幣束(へいそく)を奉納し、手を合わせ祈りを捧げる所作に重なります。「お菓子に集落の伝説を盛り込むことで、村の人たちも自分たちの村に誇りを持ちつつ、お菓子にも愛着を持ってくれるんじゃないかと思う。」と話します。tamukeが、守りたいものと想いをのせて、村のことを紹介するツールになることを期待しているようでした 。
 ストロープワッフルは、温かいコーヒーを入れたカップの上に乗せ、中のキャラメルを柔らかくして食べるのが一般的です。集落の伝説が盛り込まれたお菓子と、オリジナルのブレンドコーヒーを一緒に味わえば、小清水集落を満喫した気分になれるでしょう。7月から再開したカフェやオンラインショップで販売を行う予定です 。

子どもにも安心なもの、かつ豊かな風味を表現できる原材料を厳選。表面はロゴが焼かれている。

今後はカフェ、お菓子、農家民宿の3つの事業に注力していくとのこと。さらに長い時間、深く小清水に触れられる機会を提供するために、それぞれの使命を持った事業を循環させていきたいと力強く語ってくれました 。

矢島慶子さん

1982年新潟県柏崎市生まれ。東京に強い憧れを持ち、20歳で上京。いくつかの飲食店、アパレルブランドに勤務。中越沖地震をきっかけに、28歳で柏崎市にUターン。
2012年、結婚を機に小清水集落の住人となる。2014年にEALY CAFEをオープン。小清水集落を100年後まで存続させるという想いを仲間と共有し、集落の中で働いている。

NPO法人SPIN A TALE
住所:新潟県柏崎市石曽根5295
電話番号:0257-41-6300
tamukeのHP:https://tamuke.com

※この記事はシーズン柏崎2019年8月号「社会を良くする挑戦者たち vol.14」に掲載されたものです 。
http://seasun-kashiwazaki.com

2019年8月12日 13:46

カテゴリー / あいさ

##

投稿者 / hirata