社会を良くする挑戦者たちvol.11

新潟の山を守るために経済の循環を生み出す
木のぬくもりを次の世代につないでいく新たな挑戦

 「杉と男は育たない」
 新潟県で語られるこの格言、近い将来には語れなくなるかもしれません。今回紹介するのは新潟県産の杉を販売し、山にお金が戻る仕組みを作って山林を守ろうと取り組む柏崎の材木店の挑戦です。

 昔の生活でいえば、料理の火に使う、家具を作る、家を建てるなど、人々は身近な山林の木々を生活に利用していました。しかし、生活スタイルの変化から山林の木々は使われなくなり、住宅用の木材も安い外国産の木材が主流に。国産の木材の価格が下がることで林業に従事する人も減り、管理の行き届かない木材は更に価格が下がるという悪循環が生まれています。また、人の手の入らなくなった山林は荒廃し、最近では全国各地で土砂崩れ等の災害にもつながっています。

 柏崎・刈羽で60年前から材木屋を営んできた株式会社太田材木店は、戦後の下駄に使用する桐の売買に始まり、現在では住宅用の木材の製造・販売だけでなく、住宅の設計・施工まで行っています。新潟県産杉を使用した建築用木材を「越後長次郎杉」と創業者の名前を冠したブランドで販売するのは、まさに木材の地産地消を目指しています。

創業者が60年前に植林した山を自社で管理。
整備も毎年、社員で行っています。

 太田材木店が今取り組んでいるのが木材のトレーサビリティ。この管理業務に携わっているのが太田瑞生さんです。トレーサビリティとは、生産したものが消費されるまでどのような流れで行き渡っているかが見える化されることを指しており、食品や工業製品の分野では多く取り入れられています。
 新潟県産杉を市場から仕入れ、自分たちで製材する際に「いつ、どこで伐採したのか」がわかる印字を行い、出荷先の工務店などへ納品する際には森林組合から出る新潟県産杉である証明書を一緒に渡します。そうすることで、最終消費者である家を建てる家主も、家のどの柱が新潟県のどの産地で育ったのかわかるようになります。
 「家を建てるときにどこの産地の木を使ったかは興味のない人が多い。今は外国産の木材が多くなっているが、地元の木が消費されたら地元の森林と林業従事者にお金が戻る。新潟県の産地をわかるようにすることで家主も木や家に愛着や誇りが湧くのではないか。」と太田さんは言います。

 太田さんの業務は多岐に渡っており、昨年からは新潟県産杉を気軽に触れられる機会を作ろうと、椅子づくりワークショップに取り組んでいます。親子で自分の好みの木材を選んで、形を切り出し、オリジナルの椅子を作ることができるこの企画は、好評を集めています。木の見える生活環境が減り、子どものときから木のぬくもりを感じながら育つことは少なくなっていますが、「新潟県産杉の見た目は黒っぽくて他のものよりも劣るが、冬の吹雪にさらされても真っ直ぐ立っていることで、強度がある。杉は保温力が高く、杉に素肌で触れるとぬくもりを返してくれる。杉に直接触れてもらって良さを感じてもらいたい。」という思いから、子どもにとって生活に身近な椅子を作る発想につながっています。

「休日の椅子ワークショップ」は木目や色の違う木材を選ぶ楽しみがあります。

 「材木店って普通の人が行っていいところなの?と友達には聞かれるけれども、ふらっと欲しい木材を買いに来てもらえたら嬉しい。DIYにも県産杉を選択肢に入れてもらいたい。」と笑顔で語る太田さん。
 今後は木材にICチップを埋め込む管理方法や製材の現場を見てもらうツアーなどを実現できないかと模索中です。木材の生産者と消費者を見える化することから、経済の循環を生み、身近な森林の再生を目指していく挑戦がこれからも続きます。

太田瑞生さん


刈羽村赤田出身、柏崎市育ち。建築系の専門学校を卒業し、2017年に家業である太田材木店に入社。建築係としてCADで住宅の設計図を書く一方、木材のトレーサビリティの管理や椅子づくりのワークショップの企画・PRなどの幅広い業務も担当しています。祖父のじいじと畑仕事をするのが趣味。

株式会社太田材木店
住所:新潟県柏崎市東原町12-2
電話番号: 0257-24-1511
営業日: 月〜金曜日、第1・第3土曜日
営業時間: 8:00〜17:00
HP:http://oota-zaimokuten.com/
料金:椅子づくりワークショップ 1回2,000円

※この記事はシーズン柏崎2018年10月号「社会を良くする挑戦者たち vol.11」に掲載されたものです。
http://seasun-kashiwazaki.com

2018年10月14日 11:01

カテゴリー / あいさ

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投稿者 / hirata