ここでしか味わえない文化を多くの人に
伝統の食文化と地域の歴史を伝える黒崎代表の挑戦
柏崎駅から上越方面へ電車で10分。岩場が続く海岸線に沿うようにJR笠島駅から100メートルほどの所に「海辺のキッチン倶楽部もく」はあります。ここは笠島の伝統料理が食べられるカフェとして、笠島の魅力を発信しています。
海水浴場があり、2016年まで臨海学校が開校していた笠島は、毎年夏になると県外からの海水浴客で賑わいました。30年くらい前までは、地域にはたくさんのお店や民宿があり、その中の多くは、笠島海岸沖で獲れる鯛や、ブランド品となっている笠島もずくをはじめとする魚介類を使った料理を提供していました。カラシが効いたイカのぬた、くるみののった味付きのえご、新潟の郷土料理であるのっぺにも魚の出汁が使われています。
「笠島の料理はここでしか食べられない。」と代表の黒崎さんは言います。それは時代とともにまちの高齢化が進んでいくにつれて、笠島の伝統料理が食べられるお店や民宿も減っていったためです。また、昔から海女さんのいる笠島では、女性も大切な働き手でした。そのため地域内で結婚する人が多く、笠島の料理が地域外に出ていくことが少なかったそうです。
最近では地域外から嫁いできた人が増え、笠島の伝統料理を食べたことはあるけど作ったことはないという人や、お姑さんから習う機会がなかった人が多く、このままだと伝統料理を作れる人がいなくなってしまう可能性がありました。そこで黒崎さんは、自分と同じように料理を習いたい人たちを集め、民宿の元女将さんたちを先生に料理教室を開くことにしました。どの料理も丁寧な下ごしらえを必要とします。のっぺなどは、一つひとつの材料を別々に下茹でするため、元女将さんから細かく教えてもらいました。
その後、料理教室の生徒だけでなく、もっと多くの人から笠島に親しみを持ってもらいたいという思いから、改装した自宅の蔵を2017年に小さなカフェとしてオープンしました。ランチには、料理教室で教わったレシピを活かし、伝統料理や笠島で獲れた旬の魚介類を使った料理を振る舞っています。ランチを運ぶ時に一つひとつの料理を説明することで、疑問に思ったことを質問してもらったり、お客様同士の話題のタネになったりと、自然と会話が弾みます。

料理以外の笠島の文化や歴史も知ってほしいと思った黒崎さんは、120年前に北越鉄道(現:信越本線)が開通した当時のまま残る「赤レンガ」や、佐渡から江戸までの金銀の運搬ルートとして整備された「北国街道」などについて書かれたランチョンマットを作成しました。ランチョンマットは料理を待つ間に読んでもらい、希望する方にはプレゼントしています。そうして持って帰ってもらうことで、地域外への情報発信のツールの一つにもなっています。

カフェ店内には、地域の人が作った手芸品や写真、生け花などが時折飾られます。今後は、その作品をゆったりと鑑賞できるようなギャラリーを開設しようと、黒崎さんは計画を練っています。「かつての賑やかさが戻ればいいなと思う。でも店舗が1軒じゃまだまだ地域の賑わいには足りない。」という黒崎さん。今までの文化を大切にしつつ、これからの賑わいを生み出すための活動は今後も続いていきます。
黒崎朝子さん 新潟市出身。夫の転勤を機に2002年に夫の実家のある笠島に転居。食文化を残したい、かつての賑やかなまちにしたいと思い、2016年に海辺のキッチン倶楽部もくの活動を開始。伝統料理のレシピを継承すると共に、作り方を動画で保存。2017年に店舗をオープンさせる。笠島の名所を案内する地域ガイドも行う。
海辺のキッチン倶楽部もく
住所:新潟県柏崎市笠島810-1
電話番号:0257-31-1023
営業日:金・土・日(臨時休業あり)
営業時間:10:00〜16:00
HP:http://www17.plala.or.jp/kasasimamoku/index/
※この記事はシーズン柏崎2018年6月号「社会を良くする挑戦者たち vol.09」に掲載されたものです。
http://seasun-kashiwazaki.com